TBSで放送中のドラマ『コウノドリ』は、綿密な取材とリアルな絵で、見るものの胸に何か熱いものがこみ上げてくるような感動的な作品です。これに対して、沖田×華さんの『透明なゆりかご』は、産婦人科で働いた経験のある作者が目の前で見てきた産科医療の過酷な実態を描いた衝撃作です。
どちらも、一般にはあまり知られていない産科医療の現実を、読む人にわかりやすく伝え、啓蒙するような内容になっています。学校で教科書として読まれるべきと思うくらいなのですが、刺激が強すぎてダメなのでしょうか?
『透明なゆりかご』の内容
『透明なゆりかご』とは、おそらく人工妊娠中絶によって取り出された命のカケラ(胎児の体)を入れる専用の透明ケースのこと。高校3年生(17歳)の夏休みに産婦人科でアルバイトを始めた作者が初めに教わった中絶の仕事で使われるものです。
産婦人科では一般的なお産だけではなく人工妊娠中絶も日常的に行われていて、そうすると出産が行われている部屋で中絶が行われるという事態が起こり得るわけですね。人工妊娠中絶の件数は一般の人の感覚からすると非常に多く、実際に産婦人科医がどのように処置をするのかといったことが第1話「命のかけら」でたんたんと描かれています。
いきなり重い話から始まるのですが、タイトルを並べてみると次のようになります。
第1巻
第1話「命のかけら」
第2話「野良妊婦」
第3話「保育器の子」
第4話「胎児の光」
第5話「透明な子」
第6話「母性について」
第7話「小さな手帳」
第2巻
第8話「産科危機」
第9話「初産指導」
第10話「ドゥーラさん」
第11話「不機嫌な妊婦」
第12話「14歳の妊婦」
第13話「子供嫌いの看護師」
第14話「縁をつなぐ子」
マンガには、不倫で出来た子を巡って病院内で口論するカップル、添い寝で窒息して亡くなる赤ちゃん、病院の前に捨てられていた未熟児の赤ちゃん、1人で産んだ赤ちゃんを捨てた高校生の女子、女が妊娠したと伝えたとたん男と連絡がつかなくなりお金も用意できず独りぼっちで放置される女の子、中絶で体調不良になり他人の子どもを蹴り飛ばす女性、性虐待を受けた女の子といった人物が登場します。
何も知らなかった私にとっては、読んで言葉を失うような話ばかりでした。
第1巻 第6話「母性について」は、妊婦のお腹の中でいつの間にか胎児が死亡していたという内容。死亡原因は不明で、本当に悲しいお話しです。
『コウノドリ』11巻にも同様の話が出てきました。
普通に女性が妊娠したら当たり前のように赤ちゃんが育って生まれてくると思っていた…、でも赤ちゃんが生まれてくるというのは一つひとつが実は奇跡なんだということを証明する貴重なエピソードで、涙なしには読めません。
第2巻はまだ読んでいる途中なのですが、作者の沖田さんが妊婦の死亡事故に居合わせたエピソードが強烈です。死亡した妊婦が遺した双子の赤ちゃんを前に旦那さんが途方にくれ自殺未遂を起こしたり…。
とにかくいろいろ考えさせられる内容であることは間違いありません。
どちらかというと、自分も含め妊娠出産を軽く考えがちな男性は奥さんの辛さを少しでも知るためにも読んでおくべき本なのではないかと思いました。
娘を持つ親も、読んでおくべき本ですね。
マンガを読むにあたって、参考になる記事
作者の沖田さんのインタビューなどを読むことができます。
- 妊婦死亡、流産、14歳の母親……知られざる産婦人科の現場から ~大反響漫画『透明なゆりかご』作者・沖田×華さんに聞く | この著者に聞け | 現代ビジネス [講談社]
- 17歳のアルバイトは、中絶された胎児の処置だった――漫画家・沖田×華さんが描く、産婦人科の光と影
- 「母体から出された中絶胎児を専用のケースに移して、業者さんに渡すだけです」産婦人科実録作者に聞く1 - エキレビ!(1/4)